月の光が薄く街を照らす夜、古い路地裏に黒猫の長老が座っていた。 若い猫たちは円になって座り、長老の話を静かに待っている。
長老はゆっくりと尻尾を揺らしながら、こう語り始めた。
■ 「戦わない」という言葉の落とし穴
「戦いはよくない」と、猫たちはよく言う。 争いを嫌う気持ちは尊い。 けれど、長老は首を振った。
「ただ『戦わないよ』と言うだけで、平和が手に入ると思うかい?」
若い猫たちは首をかしげる。
長老は続けた。
「森の奥には、牙を持つ獣がいる。 こちらが牙を見せなければ、獣は『抵抗しないのだな』と思い、 そのまま村を飲み込んでしまうことがあるのだよ。」
猫たちはざわめいた。 “戦わない”という優しい言葉が、 時に獣への 招待状 になってしまうことを、誰も知らなかったのだ。
■ 平和を守るために必要な「牙」
長老は、月を見上げながら言った。
「本当に争いを避けたいなら、 『手を出すならこちらもやるぞ』という覚悟を見せることだ。」
若い猫たちは驚いた。 争いを避けるために、牙を見せる必要があるなんて。
「牙を持つ者に対しては、 こちらも牙を持っていると知らせることが、 一番の抑止になるのだよ。」
長老の声は静かだったが、路地裏の空気は重くなった。
■ 世界という“巨大な盤面”
長老は地面に小石を並べた。 それはまるで世界の地図のようだった。
「世界は大きな盤面だ。 動かそうとしなければ、何も変わらない。 強い獣が動けば、弱い村は飲み込まれる。」
若い猫たちは石の配置を見つめた。
「森の向こうには、牙をむき出しにして生きる獣もいる。 その獣に対して、 『争いは嫌いです』と言うだけでは、村は守れない。」
■ 究極の選択肢から目を背けないこと
長老は最後に、少しだけ声を低くした。
「村を守るためには、 時に“究極の選択肢”を考えなければならない。」
若い猫たちは息を呑む。
「牙を持つ獣に対抗するための、 こちらの“最後の牙”だ。」
それは、村の猫たちがずっと目を背けてきた話だった。
■ 現実のヴェールを剥ぎ取る勇気
長老は立ち上がり、若い猫たちを見渡した。
「平和を願うことは大切だ。 だが、願いだけでは村は守れない。 現実の恐ろしさを直視し、 それでもなお自分の足で立つ覚悟が必要なのだ。」
若い猫たちは静かにうなずいた。
月の光が路地裏を照らし、 猫たちの影が長く伸びていた。
「未来の種は、もう投げられている。 どう育てるかは、お前たち次第だよ。」
長老の言葉は、夜風に溶けていった。

